その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「従属してやろうというのだよ、この、グリムがな」
「なっ・・・!」「マジかよ・・・」「嘘?!」「え・・・?」「!!」
その場にいた五人が同時に驚きの声を上げた。一体何が起きてるのか解らないけど、この感じ、一度味わったことがある。
「・・・もしかして、一度も仕えた例がない・・・とか?」
「我が君主は王族の馬鹿共よりは回転の速い男のようで何よりだ」
いや、王族の方々は多分俺の数倍頭が良いぞ。実際会った俺がそう思うんだから、間違いない。若杉お前、ひきこもりだったから王族の顔なんて知らないだろう。
「お前、王族にあったことあんのか?」
意外だと言う顔を微塵も隠さず鷲尾が問いかけた。すると、若杉は眉間にしわを寄せて彼に視線を投げる。
「会わずともこの堂々巡りの下らんやりとりを長々と続けている輩が博学者だとは思えん」
若杉は、たまに出る言葉が妙に辛辣だ。個人的な感想としては、超上から目線な奴ってとこだな。嫌なタイプだ。まぁ、そんなこと言ってられないんだけどさ・・・
すると今度は打海が若杉の手を弾いた。あの手・・・明日腫れるんじゃないだろうか・・・
「解らないね。なんでグリムがアリスに仕える」
「独占欲か?今代のチェシャ猫は男色家だったとは、知らんかったのう」
「ふざけるのは対外にしろ」
そういって、打海は若杉を射るような目つきで仕留める。が、若杉は依然飄々としており、何を考えているのか解りにくい。いや、それは打海も同じなんだけど。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷