その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「だからまだ『契約』段階で、『従属』はしておらんだろう?」
本当に、勘が鋭い。いや、応用が利く能力だと思っていたけど、ものっすごい洞察力を引き上げる能力なんじゃないか?頭が良いとか、そういうレベルだけの話じゃない。
「それに、私の能力を今理解したみたいだしのう?」
「!!」
「そこまで能力に無関心な者が戦い抜けられるほど、この世界も甘くは無いのだよ」
まったく、何処までもお見通しらしい。もうあれじゃね?千里眼ってやつじゃね?洞察力レベルじゃねぇよ。
「・・・能力って、ホント何でもありなんだな」
「奇遇ね。あたしも今そう思ったわ」
茫然とつぶやくと、後ろにいた藤堂が初めて同意してくれた。彼女が根角以外のことで喋るとは思わなかったな。
意地の悪いことをしてきた若杉を、宝亀は呆れた目と苛立った雰囲気で攻撃した。
「解っているなら話は早い。契約の条件は何だ?」
「ふむ・・・そうだの・・・」
パイプを肘かけに置いて、おもむろに彼が立ちあがる。ひょろりと長い印象は確かにあったけど、いざ立ってみると、一番大きかった鷲尾よりちょっとだけでかいくらいだった。なるほど、細いって言うのは、背が高く見える効果があるのか・・・。
俺の前まで歩いてくると、じっと顔を見下ろしてきた。それから、向きを変えて奥の机に向かう。抽斗から一枚の紙と・・・あれ硝子ペンってやつか?とりあえず、黒いのが入った硝子の棒っぽいのを取り出して、こっちに戻ってきた。
「これに、『赤の王族への不満』を書くといい」
「え?俺が?」
「いや、赤に仕えている者から得た、『赤の王族への不満』だ」
そんなの出てくるのか?そう思いながら手を伸ばしかけた時、鷲尾、宝亀、打海の三人が割り込んできた。
「待て待て!そう簡単に受け取るなって!受け取った途端に契約開始、なんてのもあるんだぞ!」
何処の悪徳商法だ。でも俺の手首を押さえる鷲尾の手の力はかなり本気で痛いし、間に割り込んで若杉を見る打海の目にも敵意がこもっている。若杉の手を上に弾いた宝亀が、迫力のある声で繰り返した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷