その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「彼が着ているものは、この世界の物ではないだろう」
その一言から始まった彼の解説はこうだ。
俺が着ているものはこの世界の物ではない。更に打海も俺に従っている。そして決め手は宝亀が「アリスが来ている」という言葉だ。そこから俺が男でもアリスなのだと解ったそうだ。普通は解らんだろう。
んでもって鷲尾がいることから、彼の能力でこの家の前まで来たと判断できる。また、宝亀が同行していることで、二人が俺に従属していることが解ったと言う。一体どういうことかと尋ねると、彼はため息を吐く。
「まず先に宝亀に会うことは無いだろう。そして鷲尾なら私のところに連れていくより、先に宝亀のところに連れていくだろう?」
「でも・・・」
「しかし戦争の勝ち方などでは鷲尾も案内などしないだろう。だとしたら、帰りたいと言ったと考えるのが妥当だ」
そして彼が言うには、歴代のアリスの中ですぐに帰ることを願ったアリスはいないのだそうだ。それは文献による知識だそうだが、同じ知識を宝亀は生まれながらにして持っている。となれば、好奇心旺盛な「亀まがい」が俺を放置するわけがなく、その考えに興味を惹かれるのも想像がつくそうだ。しかしただついていく、というのも労力を要する。そのため、従属や契約をしなければならないそうだ。言われてみれば、案内だったりついていくだったり、全て色々契約をしてやってきた気がする。
けれども、宝亀のアドバイスを受けてなお、俺がここにいるのはおかしいという。そこから、俺が妙な方法でこの世界に来たのではないかと考えたそうだ。そこから俺が「帰れない」と悟る。
しかしそれだとまだ、俺がこの世界を統一したがっていると言う選択肢が消えない。平和主義なことを知っているならまだしも知らなければ、歴代アリス達が行ってきたそれを俺もやると思うのは詮無いことだろう。
そこで根角と藤堂の存在が重視される。一度従属してしまった場合、契約解除には主従の承諾が必要だ。そのため、宝亀が協力しないと言うことは出来ないので、ここでは宝亀の反戦思想は考えない。
根角も藤堂も戦争をよく思っていない者たちだ。それもまた、代々の「ネズミ」と「ドードー」がそうなのだとか。戦争に参加するくらいなら死んだ方がましだレベルだったこともあるそうだ。そんな者たちが、戦争に参加したいと言う俺たちに協力することはないと踏んだわけである。
「でも、俺たちが二人を脅したって可能性もあるだろ?」
いや、実際脅したけど。
「脅し方にはいろいろあるだろう。今のところ、村の仲間のため、とでもいって動かしているのではないのか?心を許した相手の前でずっと眉間にしわを寄せていることもあまりないだろうしのう」
パイプを吸って、ふぅ・・・とピンクの煙を吐き出した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷