その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
とにかく、こういうときはばれる前に用件を済ませるに限る。俺は痛い全身に鞭打って、何とか立ち上がった。
鷲尾のカギは何処にある?引き出しか?
そう考えて周りに目を向けた瞬間、俺は固まった。
対立してるっていう話は聞いてた。なんか、赤だったか白だったかが。でもそれは思想的対立とか参議院衆議院みたいなものだと思ってた。でも。
今俺の目の前に並んでいるのは、大型の銃だとか研ぎ澄まされた太剣だとか、「人を殺すための道具」が陳列していたのだ。それも、部屋一面に。
俺は思わず腰を抜かした。本とかで見たことあるし、ファンタジー小説も大好きだ。だからこういうものは知ってるし、怖いと思ったこともない。
でも、本物は違う。威圧感があるし、何よりも、これによって自分の命がたたれるかもしれないという恐怖心があふれる。いや、自分の命じゃない。誰かの命をこれらが奪ってきたのではないかと恐怖が募るのだ。
ふと視界に鍵が入った。違和感を抱くほど、巨大なカギだ。でもあの鍵さえ手に入れば、俺はここから出れるかもしれない。それなら、すぐにでもあれを手に入れたい。
俺は入りだして、鍵をフックから外した。乱暴に扱うと上に置いてあるだけの剣が落ちてきそうだったけど、そんなのを考えてる余裕なんてない。鍵を小脇に抱えて、行きと同じ要領で窓から出る。着地するときにベストも回収した。
鍵を丸出しで持ち歩くのも何なので、ベストで鍵をくるんだ。大きい印象の強かった鍵だが、胴長の俺のベストで裕に包める程度である。
心臓になれない負担がかかったので、手足が尋常じゃなく震える。俺はとんでもない世界に迷い込んだのかもしれない。鷲尾に確認を取るまで信じたくはないが。
正体のわからなくなった鍵を再び抱えて走り出そうとしたとき、目の前から声がかかった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷