その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
覚悟をした俺は、低木から飛び出してその場に立ってみた。手をぶんぶんと動かしてみて、ぴょんぴょんと跳ねてみて、確認を取る。
結果、どんなに動いても、従者たちがこちらを見ることはなかった。
懸垂は苦手だけど、走り高跳び・・・だっけ?あれならできる。いや、むしろ得意な方だ。120センチ位は飛べた記憶がある。地味だけど、珍しく活躍できて、注目が歯痒かったんだ。半年近く前の話だけど、衰えてないことを信じる!
音を立てるのは少し怖かったので、初めに潜んでいた低木のぎりぎり手前くらいまで離れた。そこから走り出し、さっきまでいた低木を大股で飛び越えてから、窓枠に手をついてひょいと通過する。
ここまでは大成功だった。ただ、いつも着地点にはクッションがあった。でも今回は室内への侵入、そんな丁寧なモノがあるわけがない。それを全く考えていなかった。
俺は思いっきり床に体を打ちつけた。フローリングじゃなかったのが不幸中の幸いだ。どっちにしろ、悪いことをすると痛い目を見るってことなんだろうな。
しかも今考えてみれば、窓ガラスがない分防犯システムがあったのかもしれない。今作動していないということはきっとなかったってことなんだろうけど、それでもひやりとする。それこそ言い逃れできない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷