その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「で、何しに来たんだい?」
ふんぞり返った姿勢は、とてもじゃないけど客人を迎える姿勢には見えない。確かに少々常識を逸した人柄ではあるとは思う。けど、そうじゃなければ理由は一つだ。
彼は、何で俺達がここに来たのか、推測がついている。若杉・・・だっけ?とにかく彼を頼りきたとなれば、立場はあちらの方が上だ。この信じられない出迎え方や酷い態度も全て理解できる。
同じことを、おそらく宝亀も思ったのだろう。苦虫をつぶしたように、綺麗な顔がひしゃげた。そんなに解りやすく出しちゃだめだろ、流石に。
「貴殿のことだ。アリスが来ていることは知っているだろう?」
「当然」
「だろうな。そこで・・・」
「『彼を元の世界に返す方法が知りたい』、違うか?」
今の一言で全てわかる。彼が持っている情報は、ただアリスが来ている、と言うものだけじゃない。アリスが異例の男であり、これまた従来とは違う方法でこの世界に来た、と言うところまで掴んでいる。
宝亀は口の端をひくひくと痙攣させながら、若杉の顔を睨みつけた。しかし彼は飄々とパイプを吸う。根性があると言うか、何考えてんのかまるで解らないな・・・
ピンク色の煙が辺りに充満し、この煙がまた甘ったるい匂いなもんで吐き気がしてきた。
「・・・言っておくが、私はこの部屋から一歩も出ておらんぞ」
・・・ん?じゃあ、一体どこから情報を・・・
そう思ったのは、俺だけではなかったようだ。藤堂が代表して聞く。
「じゃあ、なんで解ったのよ!」
自分達と同じ状況でありながら、彼女達とは違い見事にいい当てたのが悔しいのだろう。軽くやつあたりだ。
すると、若杉は俺のことを指差した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷