その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「アリスが、こちらに来たことは知っているか?」
「!!」
そんな誰もが知っている情報を今更確認してどうするのか?と思っていたら、意外にも根角は知らないようだった。俺が来てからある程度の月日は流れてるわけだし、実際俺のあった何人もが知っていた。
だからむしろ、知らない根角の方が不思議なくらいだ。何故彼は知らなかったのだろうか?するとその答えを、宝亀が本人に確認した。
「この村の住人は誰も、村の外の連中とやりとりをしていないだろう?」
「・・・藤堂は、村の人間じゃない」
「厳密にはそうかもしれないが、藤堂がこの村のこと以外に関心を持たないなら、それはこの村の人間と言ってしまっても過言ではないだろう?」
ぐっと言葉を詰まらせた根角を助けるように、藤堂が間に割り込んだ。この空気の中割り込める彼女は凄い。
「し、知ってたわよ!男のアリスでしょう?」
「ほう」
「男のアリス」という表現だけで、知っていたことは確かに立証された。しかし、それも助太刀にはならなかったようだ。
「だがいくら藤堂が知っていようと、根角に教えてなければ、根角にとって藤堂は村の人間と同等の価値しかないだろう?」
宝亀、お前女なんだから気付けよ。その言い方はキツいって。片思いしてるの解るだろ・・・っ!
拳をギュウッと握りしめた藤堂は、何も言い返せずに俯いた。ぼさぼさの髪が少しだけ元気無く萎れたような錯覚さえ覚える。
すると根角はふうとため息をついてから、宝亀を見た。
「解った。こっちの情報不足は認めるよ。ただ、それがどうしたって言うのさ」
開き直った。まあ、確かに強気で行く気なら、もうそれしか手段はねぇよな。仕方ないことは解る。それが癇に障ったのか、宝亀は眉間にしわを寄せて、不快な顔をした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷