その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「お取り込み中失礼する。根角(ねすみ)、貴様に用があってきた」
・・・宝亀ってこういうところがある意味すげぇよな、死んでも見習いたくないが。
まあ、当然のことだとは思うけど、怒った忠哉、もとい根角がじっと俺たちを見てきた。そして要件も聞かずにこう言い放つ。
「この村から出る気は一切ないからね」
協力はしないよってことだ。う〜む・・・こいつは頑固そうだな。
そう思ったのもつかの間、宝亀は根角に歩み寄ると、彼の前にある机に手をついた。そのまま前傾姿勢で、あからさまに威圧する。
「そんなこと言っていられるのも、今のうちだけだぞ」
「・・・どういう意味さ?」
宝亀の不敵な笑みが引っ掛かったのだろう。もしくは、「宝亀」が言ったから、根角も気になったのかもしれない。ともかく、聞く姿勢は持ってくれた。
けど俺は何も考えてない。ワタワタとしていると、俺を放り出して二人が会話を始める。
「なあ根角。貴様にとって大切な物は何だ?」
「決まってるでしょ、この村だ」
「確かに、ここは根角の一族によって形成された村だったな。つまり、お前の家族そのものというわけだ」
久々にまともなことを言うやつが出てきた気がする。俺だって家族とそんなに仲が良いってわけじゃないけど、やっぱり家族って大切だもんな。根角の隣りで不満そうな顔を隠しもしない藤堂は一応無視しておこう。複雑な心中だけはお察しするよ。
根角がどう答えるのか、宝亀には解っていたらしい。彼女は嗤うと、身を低くして座っている彼に視線を合わせた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷