その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ちょ、待て待て!『彼女』じゃないのかよ!!」
「だから彼女だろ?」
「いやいやいや!アレ男だろ!!」
「男みたいだけど藤堂は女だよ」
笑いながら訂正された。え、でもあいつ、髪の毛ぼさぼさで小汚いジャージ着てたぞ?アレ女?本当に女??
下ろす時間がないとかで下ろしてもらえなかった俺は、逆さまに彼女、藤堂を捕えた。やっぱりどう見ても男にしか見えないけど、間違いないんだろう。
不意に、彼・・・じゃなかった、彼女が、ある家の扉を開けた。そしてそこで大声を出す。
「忠哉いる?!」
聞きとれたのはそこまでで、それから家に入っていき、わいわいと賑やかなことをやっていた。
先陣二人に追いつくと、宝亀が家を指差す。
「ネズミはここにいるらしい」
「『ちゅーや』ってやつ?」
「ああ、藤堂はベル代わりでな。ああやって『軍が攻めてきた』と言えば、真っ先にネズミのところへ行くんだ」
なんか・・・気の毒なやつだな、藤堂・・・。そしてあの時村人たちが全く同様しなかったのもそういうことなんだろう。むしろ嘘だと解っていれば、「大声を出す来客がいる=ここは安全」という合図になるかもしれない。
「しかし藤堂が先に情報を掴んでいると、やつも動いてはくれない」
情報がどうのこうのって言うのは、そこに繋がるのか。
ノックをした宝亀は、返事がくる前に扉を開けた。中では二人がぎゃんぎゃんと言い合いをしている。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷