その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「いや、策はある」
そういうとおもむろに、彼女は大きな声を張り上げた。
「大変だ!赤の軍が近くまで来ているぞ!!」
マジかよ!ってかそんな状態でこんな大声上げたらバレんじゃねぇか!!何やってんだよ、さっきまであれだけ注意しろって言ってたくせに!!!
俺の慌てっぷりを笑いながら、打海がこっそりと教えてくれる。
「あ・・・主・・・、嘘ですよ、嘘・・・ククッ」
「え・・・嘘?」
言われてみれば、あの声に対して誰も反応していない。村人の一人や二人、少しは動いてもいいはずなんだが・・・
「有須、これから凄いのが通るから、彼女を追いかけるぞ」
「凄いの?」と聞き返す前に、何やら足音が聞こえてきた。
ドドドドドドド・・・
どんな生き物が来るのかと思っていたら、走ってきたのは一人の少年だった。茶色のジャージを着ているところが、物凄くただの高校生っぽい。少し安心する装いだ。
確かにすごいのだけど、さっき宝亀は「彼女」って言ってたはず・・・
と、思っていたら、唐突に鷲尾に担がれた。
「何ボーっとしてんだ、追いかけるぞ」
「へ?」
気付いたらもう打海と宝亀が彼を追いかけて走っている。担がれたままの状態で鷲尾に尋ねた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷