その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
ネズミは一カ所に村落を構え集住しているらしい。俺も感じたけれど、やはりそれはこの世界では珍しいことのようだ。
「しかしおかげで、獅子丸の能力がなくてもいくことができる」
まあ、普通は東西南北が解ってなきゃいけなかったり、地図が頭に入ってなきゃいけないから、たどり着けないもんだけどな?この世界の奴らはやっぱり少しおかしいけどな?
白い木に手を突きながら、今までよりもっと密集した森を進む。もう森じゃないなこれ。ジャングルって言った方がいいかもしれない。亜熱帯感もないし変な生き物がいるわけでもないけど、もうなんかジャングルの方が森より近い。いや、変な生き物はいるか。
今までそんなに気にしていなかったけれど、この世界の木は本当にチョークのようだ。触れるたびに手の表面がサラサラになって、白い粉が付く。手触りも滑らかで、石膏で出来た彫刻のようだ。生きているとは到底思えない。それでも、黄色い空を覆い尽くすほどの水色の葉を茂らせていて、生きているのだと解った。
本当に、おとぎ話だ。
そう思いながら、歩を進める。
「そういえば・・・」と、宝亀がおもむろに口を開いた。
「いつの間にトーヴなど手に入れたんだ?」
「え?ああ、そうか」
そういえば、トーヴに会ったのは彼らと別れてからだった。
「服部がくれたんだよ」
「「服部?」」
モノをくれるタイプには確かに見えないけど、その不思議そうな顔は流石に失礼ではなかろうか。すると、服部と一緒にいたところを目撃していた打海が、横から顔を出す。
「帽子屋っすよ」
「ああ、帽子屋か。あの変人なら、気まぐれに何かをくれるのも有りうるな」
「どうせまた、『僕を笑わせてみせろ』とかいう条件だろ?大変だったなーアリスも」
あの無茶ぶりはいつものことらしい。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷