その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「でももしかしたら顔出してくれるかもしれないだろ?」
「あいつに限ってはもしも何もない。あいつがそんなんで顔を出すなら、誰も苦労はしない」
「でも大声で呼べば別かも」
「・・・大声で?」
否定していた宝亀がぽかんとした顔をした。大声で、というのはそんなに変な発想だっただろうか?
「いや、そ、そんな大層な話じゃなくてさ・・・。ただうるさくすれば怒って出てくるんじゃないかなと・・・」
しかし宝亀はため息で返してきた。
「残念ながら、あれは生き物に関心がないんだよ」
「は?」
意味が解らない。生き物に興味がない?それとこれとのつながりが難解すぎるぞ、宝亀!
すると相変わらず、鷲尾の通訳が入った。
「あー、あのな、アリス」と切り出してから、どう伝えようか悩みながら説明をしてくれた。そしてそれはこうだ。
グリムは知的好奇心と探究心が旺盛な人物らしい。それだけ聞くと宝亀と同じようだ。けれども、二人には決定的な違いがある。
宝亀は常に「いつもと違うところ」に興味を持つ。つまり、物語の異分子だ。俺から見ると、それはとても「物語の人物」っぽくて、現実に今目の前にいる人がそうだとなると、とても不思議な感じがする。そしてその異分子がどのように物語の作用するのか、ということに関心を抱くそうだ。
対してグリムは、自分が面白いと思ったことに好奇心を持つという。その際、彼が「面白い」と思うのは、彼自身に影響を与えると判断出来るモノのことを言うそうだ。
・・・読者のみなさんご安心を。俺も解ってないから。ってか解らないからこの説明。長々と話されて理解を追いつかせるのは性に合わない。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷