その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「で、どうすんだ?」
そう聞かれて気付いた。そう言えば、両方の王から許可をもらえなかったんだ。鍵守はきっと、何をしたって許可証がなければ通してくれないだろう。
どうする俺、どうしよう俺!
そこでふと思い出す。そうだ。宝亀がいるんだ。バッと期待を込めて彼女を見ると、彼女は眉間にしわを寄せて唸った。
「私にはこれ以上は・・・」
終わった。俺の人生終わった。俺が王になるっていう方法も方法論としてはあるけど、あまりにも現実的じゃない。それなら死ぬ気で説得して白にでも赤にでも許可証をもらってしまった方がいいだろう。
「待て、早まるな」
青ざめた俺を見て、宝亀が慌てた様子でそう声をかけてくる。大丈夫だ、死ぬ気はない。
宝亀は俺を見て、いつも通り腕を組んで淡々した態度をとる。
「情けない話だが、私には思い付かないというだけだ」
終わりじゃないか。宝亀以外に誰が解るっていうんだ。声にこそ出さなかったが、伝わるくらいの視線を送る。と、彼女はすこし不安そうな顔で鷲尾を見た。まさか鷲尾が?と思ったらやっぱり違って、諦めた様子の鷲尾が映る。ん?
宝亀がふぅ・・・と息を吐くと同時に、木々の揺れる音がする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷