その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「了解、大佐!主、こっちへ」
何もいないと思っていた鷲尾の背に、すぅっと突如派手なピンク頭が視界に映る。空を飛んできたせいなのか、フードは脱げたようだ。
打海は俺の腕をつかむと、有無を言わせず鷲尾の背に乗せた。思いっきり横向きだけど。
バサッと大きな翼を広げ、それを激しく上下に動かし羽ばたき始める。砂利さえが風で舞い、じゃらじゃらとうるさく鳴りたてる。
「ちょ、待て、宝亀は・・・」
慌てて彼女を見ると、鷲尾の前足に掴まっていた。落ちやしないのかと思いきや、足首に捕まっているその腕を鳥のような前足で、しっかりと鷲尾も掴んでいる。なるほど、これならまあ、腕は痛いだろうが落ちはしないだろう。
「逃げるぞ!」
そう言って慌てふためく一般兵の中から、一人の男が飛び出してきた。彼の顔を見るなり、打海と宝亀の顔色が変わる。
「雉野・・・!!」
宝亀の真下に行くと、兵士たちが一度彼の周りに集まる。
「雉野様、能力者が四人もいてはいくら貴殿でも・・・」
「退け」
そう言うと、地面を蹴り上げて物凄い勢いでこちらに飛び上がってきた。そのまま俺たちを追い越すと、臨界点なのかそこで一時停止をする。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷