その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
クォォォォ・・・・・・!
鳥のような高い声で、しかし押しつぶされるような咆哮が耳を突いた。周りにいた皆が動きを止める。な、なんだ今の声・・・?
きょろきょろとあたりを見回していると、空からドスンとまた何かが落ちてきた。
いや、降りてきたんだ。
白い頭に鋭い爪をもつ脚、嘴の先は鉤爪のように鋭くとがって曲がっており、背中には大きな翼がある。本来尾があるのだろう部分からは他の獣の逞しい後ろ脚が付いており、鳥ではなく、そう、獅子のような尾を持っていた。
つまり・・・えーっと・・・
そう。思い出した。グリフォンだ。・・・ということはもしかして・・・
「わ、わしお?」
恐る恐る尋ねると、グリフォンは俺の腕に頭をぐりぐりと押し付けてきた。どうやら当たっていたらしい。こいつも柳崎みたいに獣の姿なんかになれたのか・・・
思わず感心しているうちに、宝亀が下に敷いていた盾を背負った。
「打海(うつみ)!有須(ありす)を獅子丸(ししまる)の背に乗せろ!」
久々に俺の名前が正しい発音で読まれる。そうだ、俺はアリスじゃない、有須なんだよ。俺もすっかり忘れかけてたよ、そのイントネーションの違いを・・・
って、今、打海って言ったか?
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷