その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ほ、宝亀(ほうき)!」
いつも背負っていた盾を足元に敷いて、すっと立ち上がっているのは、だいぶ前に分かれた宝亀だった。彼女はバッとこちらを向くなり、俺の肩を掴んで激しく揺する。
「大丈夫か?怪我はしてないか?手脚と耳は付いているな?」
最後の一つに激しく違和感を抱いたが、まあいいか。
「だ、大丈夫」
「そうか、良かった」
相変わらずこう、可愛いとか美人とかって言うよりも、カッコいいお姉さんだ。
宝亀の登場に驚いた一般兵達だったが、すぐに我に返った。流石プロだ。いや、感心してる場合じゃないんだけど、それが事実なんだけどっ!
「ふ・・・不法侵入者だ!捕えろ!」
羊元のところでもそうだったけど、能力者と非能力者では力に大きな差がある。しかも。
すっと細剣の柄に手をかけた宝亀は、しかし俺の顔を見てその手を離す。
そうだ。俺は血が苦手なんだ。たとえこの世界の血が紫だろうと粉末だろうと、傷つけあうことの推奨だけは死んでも出来ない。
もうまさに絶体絶命というその時。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷