その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「待て!アリスが逃げたぞ!」
誰かも解らない群れの一人が叫ぶと、それを皮切りに兵士たちが中庭に入ってきた。
「くそ、退け!」
大きく櫂を振ると、勢いよく風が吹いた。が、誰も飛ばない。なんでだ?と疑問に思ったのも一瞬で、すぐに気付いた。
人数だ。
俺の櫂の能力は風だ。カマイタチとか、そういうのだったらいいけど、ただの風なんだ。つまり。とても残念なことだけど。
人数がいて、後ろに支えてくれる人たちがいる今のような状況では意味がない・・・
どうする俺、どうするんだ俺!
わたわたしていても誰も助けてくれないことくらい解ってる。この状況をどうにかしないといけないんだ。でもどうすればいいのかなんて全然思いつかない。
と、その時だった。
フォオオン・・・
不思議な音が聞こえた。何の音かは解らないけど、何か、生き物の鳴き声のような音だ。
バッと声のした方向を見ると、何かが飛んでいた。なんだあれ?馬?ペガサス?いや、もっと違うような・・・
と、それから何かが下りてくる。え?何あれ?何あの丸いの?
ガキィ・・・ッ
疑問が多く浮かんだものだが、勢いよく俺の目の前に降り立った姿を見て、一気に安堵した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷