その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
『あー、あー、みんな聞こえる?』
白の王の声だ。どうやら城全体に放送されているそうだ。思い出しながらだから危ないけど、気になるから一応耳を澄ましとくか。
『今城の中にアリスがいるんだけど、逃げ出そうとしてるんだよね。だから・・・』
嫌な予感。悪寒がぞわっと走った。
『アリスを見つけたら、僕から褒賞をあげるから、みんな一生懸命捕まえてね』
『殺すのだけはダメってことで』とあまりにも軽い口調で付け足すと、大きな雑音と共に放送が乱暴に切られた。途端に、ガタガタと出入りのする音が耳に届く。え、マジで?
ともかく捕まる前に逃げればいいんだとか考えていた俺が甘かった。道は一本道、俺が王の間から逃げたことはさっきの放送で瞭然であり、こっちに向かって人が来るのは当然だった。
幸い来たのは一般兵たちだったんだが・・・
人数が半端ねぇ!
なんだよこの人数どこにいたんだよ、この城四次元だったわけ?
目の前に広がる人の波に、思わず中庭に飛び出す。枯山水ってわけじゃないけど、それに近い様相の中庭は、明らかに入っていい場所じゃない。けれど、そんな遠慮なんてしてられる場合でもなかった。
流石に少し抵抗があるのか、兵士たちが怯んだ。その隙に卵を取り出して櫂に変えて、再び走り出す。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷