その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ちょ、なんでそうなる!」
「ああ!なんて楽しいんだ!!」
ダメだこいつ、話聞かねぇタイプだ。
「楽しい!楽しい!最高だよ!また僕に刃向かう奴が出てくるなんて」
刃向かってない。断じて刃向かってない。俺はただ出たいだけなんだって。
「剣は何でも言うこと聞くし、六花(りっか)も全然止めてくれない。言うことを聞かないって言うから封印を解いたのに、奏も恩義がやたらに強いときた。本当にこの世はつまらないよ!」
それは勝ち組のセリフだ。確かにつまらないと思う時もあるけど、それは意見が取らなかったり、止められて思い通りに動けなかったり、言うことを聞いてもらえない時に思うのが普通だろ。嫌味かこの野郎!
・・・ん?待てよ?じゃあもしかして・・・
「あんた、この世界を支配したくないのか?」
この世界を支配するには相手の王族が邪魔だ。で、その王族を配下に置くには、俺・・・というか、アリスの能力が必要になる。だから王族は俺を狙っているらしい。でも今の話じゃ全くの逆だ。刃向かう奴の筆頭が赤の王族なわけだから、この快楽主義者は戦争を止めたいなんて微塵も思っていないだろう。
もちろん、返ってきたのは予想通りの言葉だった。
「ああ、愚問だね。支配なんてつまらないよ」
やっぱり。ってことはつまり、アリスを捕える理由はないわけだ。宝亀がこっちを薦めていたのは、そういうことだったのか。
が、俺は詰めが甘いらしい。白の王は笑顔でこう付け足した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷