その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「柳崎です。客人を案内してきました。入室許可願います」
「ああ、奏か。いーよ、入っておいで」
柳崎の堅っ苦しい挨拶の後に、温度差の激しいぬる〜い口調で返答が来た。快楽主義だか何だか忘れたけど、王様がそんなにゆるくていいのか?
「失礼します」
そういって彼女は扉に手を当てる。押すのか引くのかと思っていたら、まさかのスライド。まあ、ここまで東洋風なら可笑しい話じゃないのかもしれないけど・・・
空けた先にいたのは、背景に溶け込みそうなほど白い集団だった。
王も女王も髪の毛は真っ白。着ている服からマントまで真っ白で、頭に載っている王冠やティアラも白黒のツートーン。肌の色は確かに肌色だけど、尋常じゃないくらいの色白具合だ。お体大丈夫ですか?ってつい確認したくなるレベル。
更にその奥に控えている人物も真っ白だった。そして彼こそが、柳崎の言っていた「あいつ」だと解る。
白の騎士、最強の男、雉野 剣(きじの・つるぎ)である。
置物のように動いていないのだが、しっかりとこっちを睨んでいるから怖い。ろう人形に見つめられる方が、まだ怖くないって・・・!
逆に白の王は砕けすぎだった。「客人を連れてきた」と柳崎が言ったのにもかかわらず、彼は未だに俺の目の前で女王に膝枕をしてもらっている。女王も起こすそぶりを見せず、頭をなでたりしているのだから憎い。リア充見せつけんな!ってか、雉野はここにずっといるのかよ、すげぇな!!
彼はごろりと寝がえりを打つと、起き上がりもせず俺を視界に入れた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷