その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
ただただ長く真っ白な廊下を歩き続ける。赤の城のようにまっすぐ長いのではなく、カクカクと曲がっているので、錯覚的な長さを感じることは無かったが、曲がっても曲がっても先が見えないと言うのも、妙に長いという印象を受けた。
道案内をすると言った柳崎は、本当に道案内しかするつもりがないようで、一切の会話はなかった。初めの方は気まずくなって何度か話しかけたのだが、全て無視されたので、もう諦めている。が、ふと思い出して確認する。
「なあ、これって契約じゃないのか?」
主従関係もないのに提供はない。教えてもらえれば、と言う程度の軽い気持ちだったのだが、幸い柳崎はこの質問にだけ答えてくれた。
「契約だな」
まずった。迂闊だった。何してんだよ、俺!この世界のルールが解ってきてたんじゃねぇのかよ!!
青ざめた俺の顔を見ることなく、柳崎は長い黒髪を大きく揺らした。
「僕は君を案内しよう。君は王に武力を働かなければいい。それだけだ」
なるほど。王に手を出さない。それが大前提で契約が生じたわけな。考えてみればその通りだ。しかし、そこでふと柳崎が笑った。
「まあ、王の間には常にあいつがいる。あいつを目の前にして王に武力を働くような愚か者はそうそういないだろう」
さっきっから出てくる「あいつ」って誰なんだろうか?悶々と考えていると、柳崎がいきなり止まっていた。思い切り彼女のぶつかると、ぎろりと睨まれる。可愛い女の子がそんな怖い顔するもんじゃない。絶対するもんじゃない。顔歪むぞ。
彼女に案内されたのは、赤同様の巨大な扉の前だった。柳崎は扉をこんこんとノックする。聞こえるのか?そんな音で。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷