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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「あ」
 頭を垂れて歩いていると、向かいからそんな声が聞こえてきた。道を聞けると顔を上げてみると、そこにいるのはまさかの・・・
「りゅ・・・柳崎(りゅうざき)・・・」
 羊元(ようもと)のところで散々暴れ・・・、いや、お世話になった、あの柳崎奏である。確かに白の軍の一人だったから、ここにいてもおかしくなかった。
 柳崎は腰に差している細剣に手をかけて、こちらを睨んできた。
「何の用だ」
 警戒されてる。めっちゃ警戒されてる。でも実際の俺は警戒してくる柳崎が怖いくらいに何も考えてない。思わず後ずさりながら、手をぶんぶんと振って訂正する。
「違う!何か企んでるとかじゃねぇって!」
「じゃあなんでこんなところにいるんだ!答えろ!」
 何で彼女はこんなに高圧的なんだろう・・・。明らかに年下の少女に怒鳴られてビビってる俺って・・・情けなさ過ぎる。
「バカップルだよ!あいつらに連れて来られたんだって!」
「・・・ばかっぷる?」
 眉間にしわがより、眉尻がピクリと動く。ダメだ、この単語通じない!俺の命が危ない・・・!
「ディーとダムだよ!縞柄シャツに赤いサスペンダーを揃えてる二人組!」
 そういうと、今度は呆れた様子で柳崎は「ああ・・・」とため息を吐いた。大丈夫?大丈夫なの、俺・・・?解ってもらえたのか、これ?
 びくびくしていると、柳崎はいきなり深々と頭を下げてきた。