その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ふん。いくら亀まがいと言えど、やはり緑の間への侵入は難しいでしょう」
緑の間って部屋なのか。俺はすっと建物に視線を移した。いくつか並んでいる窓から部屋の中を見ることができ、その中は赤だの青だのとずいぶんとカラフルだ。少し離れて三階建ての建物の窓を右から左までぐるりと見る。黄緑色の部屋もあったが、緑色の部屋は一階にしかなかった。ここまで色分けされていているのだから、緑の間と言ったら緑色なんだろう。もしここで色の観念が違ったらアウトだな。
失敗は許されない。とはいえ、窓をぶち壊せばばれんだろうし、鍵を解錠する能力なんてない。もとより窓の鍵がピッキングだのなんだので開くようなものじゃないだろうけど。こういうとき超能力があればいいのに。
そこでふと思い出す。そういや鷲尾が俺も能力者みたいなことを言ってたよな?ってことは、もしかして俺もそういうの出来ちゃうのか?超能力って言ったらやっぱそういうのができる感じだよな?
希望を持って、緑色の部屋の前に移動する。鍵はやっぱり回転式で、だからこそ念動力に望みが高まった。俺はじっと鍵を見つめる。それから「動け」と頭の中で強く念じてみた。
鍵はびくともしない。
もしかして、なんか発しなきゃいけないのか?しゃがみこんだ体制で、手を前に突き出す。手から何かが出るイメージをして、なんかそれっぽくやってみた。
鍵は、やっぱりびくともしなかった。
何の成果も得られないと解った途端に、ものすごく恥ずかしくなる。バッとあたりを見回して、誰もいないことをよく確認した。それから激しい動きをしてしまったことに気付いて、心臓に負荷がかかる。
幸い誰にも見られていなかったし、気付かれてもいなかったものの、万策尽きた。近くに小石なんかも落ちてないから、運が相当良くないとばれる「窓を割る」という策も使えないし。
ここで俺は、自分の運が相当どころかかなり良くないとだめという、億に一つの確率に賭けることにした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷