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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 そして今に至る。そう言えば、従者の特徴も聞きそびれたな。結構痛い過失だと、自分で落ち込んだ。ここにきてから、なかなかハッピーな気分になれない。
 ふと気付くと、青色の低木の隙間から話し声が聞こえてきた。こっそりとのぞくと、男女が話しあっている姿が見える。それを見て、俺は呆れかえった。あいつらが従者だと、あまりにも簡単に解ったからだ。燕尾服にメイド服、どっからどう見ても、絶対従者だ。あれが公爵と夫人だった場合、とんだコスプレ夫婦である。ま、この世界に来てから常識が常識じゃなくなってるけど。
 特に危険視する感じもないけど、RPGの中じゃ何でもありってのが定石だろうし。もうたぶん、あいつらが魔法を使い始めても、俺は驚かないと思う。だからこそ、油断はできない。
 音も立てずにこそこそと移動し、茂みの中に身をひそめる。このまま二人の会話を盗み聞いてやる。鷲尾も鍵のありかを知らなかった。その点では、すぐに従者を見つけられた俺は運がいいかもしれない。なぜなら公爵夫人自身は滅多に来ず、従者が鷲尾の管理をしているらしいからだ。南京錠のカギは、鷲尾を管理するグッズのところに置いていあるはず。鷲尾の話題が出てくれれば、目処くらいつけられる。
 メイド服はなぜか巨大なスプーンを持っていて、それをずるずると引きずりながら燕尾服のもとに移動しているところだった。置物のように直立不動の燕尾服もまた、そろって巨大なフォークを持っている。彼の隣りにそろって立つと、同じように彼女も森側を向いて動きを止めた。しばらく沈黙した後、メイド服は息を吐きだす。
「・・・今日もダメでした」
「なかなか吐きませんね、グリフォンのやつ」
 微動だにしないまま、燕尾服が返した。その後の話を聞くに、俺が落ちる少し前に鷲尾のところに来ていたようだ。俺の方がメイド服より早く来れたのは、彼女が公爵夫人のもとに結果報告に行っていたかららしい。メイド服はちらりと燕尾服を見て、それからまた森に視線を戻した。
「亀まがいは?」
「さあ?少なくとも、グリフォンの鍵を取り戻しには来ていませんね」
「うまくはいかないものです、やはり」
「従属しているわけでもないですし。交換条件しても、今のグリフォンには提供できるものもありませんし」
 亀まがい。どうやらそれが鷲尾の友達の名前らしい。まがいってのが気になるけど、きっとヒョウモントカゲモドキとかのモドキと同じようなもんだろう。っていうか、友達って亀?諸葛孔明じゃなくて、亀・・・。
 ともかく、お友達同士の手助けですら、契約なしでは行われないらしい。道徳観が浸透してんのかと一度は思ったものの、むしろ非常に打算的な世界のようだ。友情とか愛情とか、そう言うのってないんだろうなぁ。