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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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公爵夫人の家へ


 人生でこんなに走り続けたことなんて、マラソン大会以外初めてだ。目の前にそびえたつ建物は、いかにもお金持ちの家って感じである。一般貧乏さんな俺は憧れるよりも、すげぇとひいてしまった。住みたいとは死んでも思わない。
 森の中に潜んで、様子をうかがう。
 実は俺は走り始めた直後に、鷲尾に呼びとめられていた。
「なんだよ」
 不機嫌に振り返ると、鷲尾は座ったまま、また枝を折っているところだった。先ほどの枝の粉が彼の足もとに広がっていて、本当にチョークみたいだ。彼の手も、心なしか白くなっているようにも見える。
 折ったばかりの木の枝で俺を差す。
「二人の従者に気を付けろよ」
「・・・二人の従者?」
 聞き返すと、鷲尾はにやりと笑う。二つに折った枝を、今度はジャグリングし始めた。二つだろうとそんなの俺にはできないので、思わず「おぉ」と感心してしまう。
「公爵夫人には二人の従者が仕えてるんだ。あいつらの忠誠心は化け物級でな。脅すわけじゃないけど、見つかったら大変だからな」
 脅すわけじゃないとか言うけど、もうただの脅しだろう、それは。大変って何なんだ、大変って!すっげー気になるけど、気になるのに、聞いたら聞いたで怖くてもう行けなくなりそうな気がして、全然聞けないじゃんか!っていうか、そんな危険なところに初対面の人間行かせるか?むしろ初対面だからこそどうなってもいいってか?なんだよそれ、勝手だろそれ!しかももう断れないじゃないか!契約破棄は犯罪なんだろ?異世界だろうとなんだろうと、俺に犯罪をする間違った勇気なんて備わってねぇンだよ!
 俺は大きくうなだれた。背中に巨大な絶望がのしかかる。結局、日本で不法侵入するのと同じくらいの環境ってことだ。