その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「アリス?君はさっき、なんて言おうとしたのかなぁ?」
今動いたら俺の首がかき切られる。それに、この状況で選択肢はないだろう。何考えてるんだこいつら。何をたくらんでいるんだ?
思考回路だけは一丁前にぐるぐる回るのに、口がピクリとも動かせない。動いても魚のようにただ口をパクパクとするだけで、全然言葉になってくれない。
「・・・ねぇ、アリス?今の状況を考えてみようか?」
俺が殺されそうだって言う状況をですか?
彼女は刃を一切動かさず、肩をすくめて見せた。意外とすごい技術だ。
「打海笑太っていう男はね?なかなか捕まらない男なんだよ」
打海の話か?今それがどう関係して・・・
「普段はすぐ姿を消しちゃうし、足の速さではきっとハッタか白の騎士ぐらいじゃないと敵わないだろうね」
意気地無しとか、そういうことを言いたいのかよ。
「別に意気地無しだなんて思ってないよ。こんな世界で誰とでも正々堂々と戦うのは、くそ真面目な馬鹿野郎か、ただの決闘狂、死にたがりのどれかだろうしね」
こいつ、心が読めるわけじゃないよな?たぶん俺の顔が、凄く解りやすいんだろう。今までの流れからも、誤魔化しきれた記憶もない。
「彼の戦闘能力も両王族が欲してるところだ。ま、彼がチェシャ猫である限り、アリスを手に入れないとなぁんにも意味ないし」
結局、こいつは何が言いたいんだ?
ちらり、と打海に視線を向けた和希が、こちらに目を戻す。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷