その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・これは、脅しじゃないのかな?」
「え?なんのこと?」
和希はこちらをずっと見ている。和樹が取り出した刃物に気付いていないのか?彼女のためなら何でもする、そんなの献身的すぎるだろ。
打海が襲われては困る。俺は彼女の腕を掴んで、その腕を大きく開かせた。首の後ろで組まれていた手は、そうすると思いのほか簡単に外れる。
「解・・・」
「ダメだ、アリス!」
打海が叫んで立ちあがった瞬間だった。俺の首にひやりとした、鉄のような感触が振れる。
刃物だ。
首に刃物を当てられた経験なんてないけど、意外と感覚的に解る。痛みがないから切られていないようだが、すこしでも動けば切れてしまいそうだ。
いつの間に取りだしたんだ?彼女の腕はずっと俺が持っていた。俺の首に手を回す時も、まだ持っていなかったじゃないか。
打海はぴたりと動きを止め、唇をかんだ。
「・・・・・・っ!」
悔しさがこちらにまで伝わってくる。そんな彼に、和樹が暗い笑みを向けた。
「邪魔しちゃだめだよぉ?アリスはみんなの物なんだからさ・・・!」
「そうだよ」と彼の言葉を肯定した和希に視線を戻すと、邪気しか伺えないような、真っ黒な笑顔で俺を見ていた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷