その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ねぇ、アリス?」
鼻先が付かんばかりの距離に、現実世界では見たことのないような綺麗な色の瞳が迫っている。彼氏が居る前で、他の男とこの距離まで近づくのは如何なものかと・・・
「白の城に来ない?」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。仕方ないだろ?俺が城を目指していることを知っているのは、鷲尾や宝亀、せめて打海が限界だろう。そうなると答えは一つ。
そう、赤の王族と同じことを、白の王族が考えているということだ。
警戒しているのを悟ったのだろう。和希は満面の笑みで俺の首に手を掛けてきた。流石にこんなことをされたことがないので、鼓動が自然と速くなった。
「別に王族に会ってとは言わないよ?白の城に遊びにおいでよってお誘いだから」
近付く彼女の顔から、なんとか視線を逸らす。と、和樹がさっき取り出したものが分かった。
サバイバルナイフだ。
途端に背筋が凍った。彼の前には打海がいる。彼女達は何も言ってない。が、間違いない。打海が人質だ。彼が先ほどから動かないのも、それを警戒しているからだろう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷