その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「同姓同名ってことか?」
正直確認なんて取らなくたってそうだろう。だが、女の子の方が首をかしげた。
「同姓同名?」
「音だけならそうだけど、文字にしたら違うね」
そう言って、少年はしゃがみこんで地面に文字を書く。その隣に、少女が同じように文字を書いた。書かれたのは二種類の「シガカズキ」の名前。それぞれが書いた文字を指差して、彼らは再び自己紹介をしてくれた。
「あたしの名前は四賀和希(しが・かずき)」
「僕の名前は志賀和樹(しが・かずき)」
確かに違う。厳密に言えば確かに違う。でも、これくらい同姓同名って言っていいじゃないかっ!
はぁとため息をついてから、すこし考える。こいつら、話している限り特に危ない感じはしないんだよな・・・?確かにあの時の光景を忘れたわけじゃないし、そういう凶暴性も持ち合わせているのは間違いないとは思う。でも、鷲尾や打海の警戒の仕方は多少異常なんだよな。
黙りこくった俺を、しばらくじっと見ていた二人が、バラバラに動き出した。和樹の方は俺から少し離れて、ポケットから何かを取り出している。何を取り出したのかは見えない。和希の方は逆に俺に近づいてきて、下からずいと覗き込んできた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷