その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
ポケットに羽根を突っ込むと、懐中時計が手に触れた。そうだ、この懐中時計も返さないと。そのためにここに来たんだから。でもこれは最低知識じゃないし、何らかの対価が必要かもしれない。そう思うと今の俺に差し出せるものは少なくて、鷲尾に尋ねるのをあきらめた。
「んじゃ、とってきてやる」と意気込むと、
「帰るために、な」と笑いながら鷲尾が俺の頭をぐりぐりとなでまわした。こいつ、絶対弟か妹がいるな。
俺は赤色の屋根を目指しながら走り出した。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷