その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「嫌だなぁ!怒らないでよ、カズキ」
・・・は?
思わず少女に目を向ける。が、彼女は平然とした顔をしていた。カズキと呼ばれても違和感はないようだ。一体どういうことなんだ?そんな混乱で恐怖も忘れ、
「え、お前ら・・・」と零すと、打海が慌てた様子で
「主、それは・・・」と言いかけて、自分の口を塞いだ。
ほぼ同時に、二人組の視線が打海に集まる。確かにそれは不思議な動作だったが、そんなにマジマジと見るようなものじゃないだろう。
すると今度は、同じタイミングで俺の方に振り返った。驚いているような大きな目と、毒々しくニヤけた口が不気味さを放つ。ちょっと前の俺だったら、間違いなく腰を抜かしていたと思われたほど、激しい恐怖が全身を駆け抜けた。
「へぇ・・・」と怪しく呟いた後、まるで別人格のように晴れやかな笑顔で二人同時に俺の手を握ってきた。女の子に握られるのはうれしいけど、男に握られても、それこそさぶいぼが立つレベルにおぞましい。
「こんにちはっ!あなた、アリスなのね?」「こんにちは、君、アリスなんだね?」
双子が同時にしゃべることを「ステレオ」とよく喩えるけれど、今のはただの雑音だった。全く同じセリフじゃないとステレオにはならないんだな・・・
まごまごしていると、奥にいる打海が不安そうに見てきているのが目に入った。彼の不安も解るが、要は彼らを怒らせなければいいだけだ。今は「オール」ではなく「卵」を持っているわけだから、彼らの能力も無効化できるはずだ。そこまで神経質になることもないだろう。
俺がすぐに返事をしなかったのが悪いらしい。そしてこいつらはじっとしているのが苦手なタイプだった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷