その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・何しに来たんでしょ?」
すると彼とは打って変わって、異様にラフな雰囲気で少年が笑った。
「やだなぁ!今は夜だよ?休戦協定休戦協定」
「休戦協定は赤と白だけの決まりっしょ?おいらたちに適用される保証はないね」
そうだったのか!今まで完全に油断してたよ。ってか、鷲尾も宝亀も大丈夫だって言ってたぞ?
「言われてみればそうだね」
効果音としては「にこり」のほうが似合う笑顔なのに、雰囲気的には「にやり」のほうが妥当な気がする。悪寒が走るような、うすら寒い笑顔だ。同時に殺されるんじゃないかと言う恐怖に襲われる。現代日本を平凡に生きている上ではなかなか体験することのない、「殺気」と言うやつだろう。出る水分があれば、完全に漏らしていたところだった。
そんな彼を制止したのは、意外にも、先ほど蹴り飛ばされた少女だった。
「だめだよ、カズキ。戦闘の音がうるさいからって話でしょ?音が出るなら無所属だって攻撃できないよ」
すっげぇ判断基準。でも彼女のおかげで解った。男の名前はカズキというらしい。
怒られたカズキは、今度こそ愛嬌のある笑顔を彼女に向ける。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷