その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「でも確かにチェシャ猫や帽子屋は出てくるけど、グリフォンだの、ましてやドラゴンなんて出てきた覚えがないぞ?」
「そうですか?じゃあ、今まで来たアリスたちとは違う物語だったんですかね?」
今まで来たアリスたちがどんな奴らだったのか、俺は知らない。ただ、俺もそこまでアリス通なわけでもないから、原作を読んだことがあるわけじゃない。あの、某有名アニメ会社が昔作った子供向け長編アニメーションのビデオを、幼稚園の頃授業の一環で見せられただけだ。だから繋がりもあいまいだし、チェシャ猫を聞くまでアリスと言われてもピンとこなかったわけだけども。
むむむ・・・と悩んでいると、打海が笑顔で付け足してきた。
「気にすることありませんって!主は色々イレギュラーな存在なんですから」
・・・ん?イレギュラー?英語が苦手すぎて、悲しいかな自信がないけど、それって確か「普通じゃない」的な意味じゃなかったか?悪い言い方をすれば異質ってことだ。
でも、能力のイレギュラーさは、宝亀が解らなかったのだから、こいつに語れるはずがない。ってことは、もっとベタな部分のはずだ。
そう言えば、宝亀は「歴代のアリス達はみんな、鍵守の守る扉から入って来た」とか言ってなかったか?一言一句違わず覚えてる、なんて俺に限ってあり得ないからそこはあきらめてほしいところだけど。
もしそれが本当なら、空から降ってきたなんていう俺は相当異質だろう。でもそれだけじゃ解決しない。今、打海はこう言ったんだ。
『色々イレギュラーな存在だ』と。
流石に数分前のセリフくらいは一言一句ちゃんと覚えてる。んでもって色々ってことは、すなわち一つではないということだ。
打海に目を向ける。彼は答えてくれるだろうか?一応聞いてみる。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷