その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「つまりですね、生まれた時から好きになるように刷り込まれてるんですよ!」
・・・解らない。何が詰まりなのか、さっぱり解らない。でもきっと、多分だけど、能力者が他の能力者の情報を知っているのと同じようなことなんだろう。それを説明する時、鷲尾も「伝わってくる」みたいなことを言っていたし、きっと明確な何かではないんだ。
「言い換えると、『この人に従いたい』って衝動が本能的にあるってこと?」
解りやすくなったかもしれないけど、なんだか野性味あふれる表現になってしまった。
それはこちらの世界の打海にもしっくりとくる表現だったようで、目を回すんじゃないかと思うくらいガクガクと首を縦に振った。
「さっすがは我が主!俺の言いたいこともよく解ってくださる!」
こいつの褒め言葉はどうにもお世辞にしか聞こえないんですが・・・
ため息を一つ吐いて、再び打海に目を向ける。童話の「アリス」なら、一般常識程度の認知はしてる。チェシャ猫は食えないキャラだけど、確かにアリスの味方ではあっただろう。その設定がこっちまで来てるってのか?
待て、早まるな。思わず自分を押しとどめる。
「アリス」にグリフォンなんて出てきたか?亀まがいなんてもっと不思議じゃないか。チェシャ猫の「チェシャ」はただ「笑う」と言う意味だって何かで読んだ記憶もある。これを童話のアリスと結びつけるのはまだ早い。
いろいろ考えていると、暇を持て余したのか打海が尋ねてきた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷