その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・彼女は、どうなるんだ?」
打海は少し困って頭を掻いた。そりゃそうだ。いくら彼がこの世界に長く住んでいたって、赤の王族に仕えたことがない限り、イレギュラーな事態の処罰までは解らないだろう。それでも聞かずには居られなかったんだ。
「殺されるんじゃないのか?初対面の俺を気分で殺そうとしたやつらだぞ!」
「それはあり得ませんよ」
「解らないだろ!」
「解りますよ、落ち着いてください、主」
眼鏡がずれて相手の顔がよく解らなくなるくらい、確かに興奮していた。それが解ったので、大きく息を吸って吐く。それを三回くらいやってから、打海を見た。
「どういうことだよ」
「彼女は宰相で、赤の王族が『唯一』賞与を与えた人間ですよ?そうやすやすと殺されることはありません」
唯一だったのか・・・。なるほど、そう言われると簡単に殺されることはないかもしれない。落ち着いた俺を見て、嬉しそうに打海が笑った。
「それに、赤の王族があの現場を見ていたわけではありません。どんなに多数決で責められても、兵士長の言葉より宰相殿の言葉の方を信じるでしょうね」
信用度の違いってことか。彼女が「捕まっていて、さっき解放された」といえば、処刑されることも確かにないだろう。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷