その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「こ、断れるんだよな?」
そうだ。そうじゃなきゃおかしい。こいつらは殺したくもない相手を殺さなきゃいけなくなるんだぞ?しかも従属相手が決まってる、打海みたいなやつもいる。人権とか、そういうのがないだろ。
「いいえ。制約を破ることは、一方的な従属破棄であり、死に値します」
言った雪坂は、表情一つ変えなかった。悲しそうな顔もしない。打海を見ても、平然と笑っている。
この世界は、やっぱりおかしい。
背筋が凍る思いってのは、きっとこういうことを言うんだ。
・・・待てよ?
「待ってくれ。それじゃあ『制約』じゃなくて『命令』だろ?逆らえない命令を出せるのは王族だけじゃ・・・」
「王族の能力は『誰にでも命令できる』という点です。従属相手にしか命令できないのとは格が違います」
なんてことだ。思わず座り込んでしまった。肩に乗っていたトーヴだけが、「ヴ?」と心配そうにのぞきこんでくれる。
救われない。鷲尾と宝亀は本当に俺なんかに従属しちゃって良かったのかよ?こういうこと知らないんだろ?確かに俺はひどい命令なんか出さないけど・・・
茫然と固まってしまった俺を見ずに、打海が黄色い綺麗な空を見て、平然と吐く。
「ま、王族が非能力者や能力者を『命令』で『従属』させ、『制約』で縛り付けてるってのが、今のこの世界だし?」
なんて悪政。政治とか国とか、そんなことわからない俺でもそうだと感じた。宝亀たちが逃げ回っていた理由も解る。従属は重複できないと言うから、もう安心なのかも知れないけれど・・・
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷