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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「あれ?助けてもらったってことは、もしかして契約が発生したのか?」
 今までの感じからだとそうだ。この世界に善意を求めてはいけないと、流石の俺だって学習した。更に、契約が平等とは限らないということも理解している。つまり。
 実は今が一番やばい状況だと言うことだ。
 彼から言われたことに譲歩はできるものの、断ることができるか解らない。もし配下につけと言われた場合、逃げ切れるほど頭が回る自信もない。
 が、打海は朗らかに笑った。
「提供だから気にしないでいいんですよ!」
「そっか、ていきょ・・・提供?」
 記憶力がないから確実性はない。でも、確か提供は従属している相手にしかできないはずだ。さっきも言った通り、俺と彼が出会ったのは昨日、それこそ一日も経っていない数時間前の話である。そしてそのときに従属なんてされた記憶がない。
 そこを問い詰めると、雪坂はチェシャ猫をじっと睨んだ。
「宣言するのが普通ですが、しなくとも責められることはありません」
 剣呑な視線を受け止めてなお、彼はニャハハと愉快そうに笑っている。なんというか・・・だいぶ自由人のようだ。視線を俺に戻した雪坂はしかし、ふうと息を吐いた。
「まあ、チェシャ猫はアリスに従属してるものなのですよ、昔っから」
 それはどういう意味だ?
 もともと従属が決まっている相手がいる存在もいる。それって結構酷じゃんか。馬が合わない相手とかだったら大変だろ。