その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「もう平気でしょ」
許可が下りたので、俺と雪坂は同時にふうと息を吐いた。意識して黙ってるのって疲れるんだな。
それにしても。
「どうなってんだよ?」
「チェシャ猫が能力を使ったのよ」
でた、能力。今度はどんな能力なんだか・・・
「チェシャ猫の能力は特殊なの。姿を消すっていう能力なんだけど、ワンダーでもありミラーでもあるのよ」
へぇ、姿を消す・・・って、へ?今何か横文字出て来なかったか?
「今何て・・・」
「姿を消す?」
小首を傾げた雪坂が可愛すぎて、一度肯定しかけてから、その邪念を払うようにぶんぶんと首を振った。
「じゃ、なくて!そのあとだよ」
「ワンダーでもありミラーでもある、ね。確かに素人が聞いたら意味解らないけど・・・」
多分雪坂は勘違いをしている。ワンダーな能力とミラーな能力が並列して存在することが奇異な話だってことは、もう充分に解った。あの説明で解らないほど俺もバカじゃない。でも、それ以前の問題で・・・
俺と雪坂の間に割り込むように、下から唐突に打海が飛び出してきた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷