その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「やぁ、お兄さん。昨晩ぶりだね」
「お前・・・!なんだこんなところに・・・」と尋ねると、ガシッと顔面を掴まれた。アイアンクローってやつ?おかげで言葉が続かなくなる。
「いいよって言うまで、ちょっと黙っててね」
意味が解らず聞き返そうとすると、捕まっていた雪坂が俺の腕をぎゅっと強く掴んだのが解った。信じろってのか?いきなり現れた奴を?
俺の気持ちは筒抜けだったのだろう。打海が小さな声で言う。
「助かりたいなら、宰相殿を信じたら?」
「・・・わかったよ!」
こそこそしていたので、怪しまれてしまった。先ほど雪坂を呼んだ兵士の声がする。
「何を話して・・・」
なぜかそこで途切れた。俺の顔から打海の手が外される。ちかちかする目で見た光景は不思議な物だった。
俺たちがそこにいるのに、誰も俺たちに気付いていないのだ。
どういうことだと聞こうとして、慌てて口をふさぐ。話しちゃいけないんだった。
雪坂を解放してから、打海の姿を探す。すると奥の方でひょいひょいと、手をこまねいている姿を見つけた。この軍隊は二つの隊だったらしく、それぞれの隊長の方に指示を仰ぎに兵士が動いてしまったため、間に隙間ができていたのである。
三人並んでそこから逃げ出し、赤の城を後にした。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷