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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「誰だ!」と男性兵士の声が、入り口ホールに響き渡った。
 見つかった。見つかってしまった。
 流石は城の軍隊。しっかりと訓練がされている。俺たちを見つけたのはたった一人の兵士だったのに、瞬く間に大勢の兵士に囲まれてしまった。きっと外側から見れれば、「おお!」と目を輝かせてしまっただろう。そのくらいの統率力があった。残念ながら内側にいるんですがね。
 全員がこちらに槍を突き出している。矢じりがハートだのスペードだの、ポップなモチーフになってるだけに、緊張はしてるけど緊迫した雰囲気は残念ながらない。さながらコントだな。クラブの矢じりがないのでちょっと探すと、後ろの方でクラブの形の斧を持った部隊がいた。なるほど、そう使えるのか。
 混乱すると脱線する癖が発動したが、ともかく状況はやばい。
 けど、俺なんかよりやばい子がいる。
「雪坂様!お離れください!」
 そう、雪坂だ。ここで俺から離れなければ、謀反と取られかねない。けれど、俺から離れれば契約を途中で破棄することになる。小さい声で尋ねた。
「契約内容の更新って可能?」
「両者が受け入れれば可能です。が、私は契約途中で打ち切るようなことは致しません」
 こんな状況で良くそんなこと言えるな。こういうとき、男よりも女の方が強いという説に激しく同意するね。
 でも、本気でそんな場合じゃない。周りがざわざわとざわつきだした。やばい。これで彼女が城を追われる身分になったら、俺の責任だ。美少女を路頭に迷わすようなこと、俺にはできないし・・・
 俺はバカだ。さんざん繰り返してきたから、もう言う必要はないかもしれない。でも、こんなことしか思いつかないんだから、もう一度再認識する必要があると感じたんだ。
 腰につけていた袋から卵を取り出す。兵士たちのざわつきが激しくなった。
「な、何する気だ!」
 ま、不審者が卵取り出したらそう思うよな。
 つい共感しながら、卵を手でたたきつぶす。そのまま引き延ばすと橙色の閃光がロビーに満ちた。手から粘り気がとれたところですぐにその真ん中を掴む。
「・・・オール?」
 兵士の一人が茫然とつぶやいた。王の間に乱入してきたやつらとは、隊が違うようだ。変化する武器はやっぱり珍しいのだろうか?赤の王も驚いてたもんな。
「ごめん」と一言謝ってから、雪坂の首に腕を回し、オールを高々と掲げた。