その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
雪坂の剣幕に押されていた女性兵士だが、すぐ切り返してきた。
「しかし、階段上では他の兵士が見張っておりました。アリスが逃げる手段は・・・」
「何?私が嘘をついているとでも言うのかしら?」
・・・え?開き直ったよ?権力フルに使ってるよ?女って怖ぇ・・・
当然ながら、女性兵士たちは雪坂を疑っているなど口が裂けても言えず、部屋を後にする。フンッとどや顔で鼻を鳴らした後、振り返って満面の笑顔を向けてくれた。
「さ、ここから出ましょうか」
「は・・・はい・・・」
そう答えるしかないだろ、この状況。
雪坂の部屋には隠し通路があった。隠し通路って言うとカッコいいんだけど、要はもう一つの出入り口だ。
一つはもちろん俺が入ってきた扉。そこは宰相として執務を行うときに使う出入り口らしい。王族の部屋と直接つながっており、すぐに参上できる造りになっているようだ。残念ながら、宰相って役職の仕事を一介の男子高校生が詳しく知るわけもなく、認識できたのは王族の執事的な感じかなぁ、と言うレベル。元の世界に戻ったら、調べてみるのもいいかもしれない。
で、もう一つが例の扉。
「何に使うんだ?プライベート用?」
結構本気で聞いたのに、笑われてしまった。女子ってこういうところが解らないんだよなぁ・・・
くすくすと可愛らしく上品に笑っていた雪坂は、時計を見せて言う。
「機密調査などの時ですよ」
「・・・き、きみつちょうさ、ですか」
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷