その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
白兎の恩返し
階段は思ったよりも短かった。すぐに行き止まりになり、扉が前に立ちはだかる。とはいえ、普通のサイズの扉だ。
「これ、開かなかったら終わりだな・・・」
鍵を閉めてきたものの、城なんて施設がマスターキーを所持してないとは思えない。きっともう取りに行っているに違いない。
なんてことを考えていたら、上の方から声が聞こえてきた。短かったとは言ったものの、上が見通せるほど短かったわけではない。あくまでも「思ったより」なんだ。
仕方ない、一か八かだ!
邪魔なオールを卵に戻し、ポケットにしまう。それから回転式のドアノブに手を掛けると、幸いなことにくるりと回った。天は俺をまだ見放してないみたいだ。
慌てて扉の向こうに入り込んで、またついていた鍵を掛ける。これでまた少しくらい時間を稼げる。
もっと奥に行こうと振り返って、俺は目を丸くした。
真っ白な髪の女の子が、こちらを見ていたのだ。その子は間違いなくあの懐中時計の子で、俺が探していた子だった。が、俺が驚いたのは彼女がいたからだけじゃない。
真っ赤なスカートをはいた彼女だが、上に来ていたはずのワイシャツが今はなく、下着が丸見えだった。
「うわっ」と声を出しそうになって口をふさぐ。同時に俺の背後からどんどんとノックが聞こえてきた。
「雪坂様!こちらに『アリス』が向かいました!入室許可を!」
自分の顔が青ざめたのが解った。だって、俺、不法侵入はおろか、いたしかたなかったとはいえ、今は言い逃れできない変態だ。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷