その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「兵士よ!この者を捕えよ!『アリス』が自ら来たぞ!」
え?ちょ・・・なんでバレた?!
とにかく逃げないとという判断力が働き、部屋を見る。
この空間には入口らしい入口は一つしかない。兵士はあの入口から来るのだろうから、どっか、窓的なところから逃げる必要がある。けれども。
換気はどうやってるんだろうって言うくらい、窓も何もなかった。
大きな足音が聞こえてくる。やばい、急がないと。
「呉也!兵が来るまで逃がしちゃだめよ」
「朱里ちゃんのお願いとあらば」
呉也が重たそうなマントをはずす。マントの下には剣を所持していたらしく、橙色の立派な鞘が目立つ。赤とオレンジの違いがここまで明確に感じるのは、この空間が赤すぎるからだろう。
いざとなったら戦闘になる。もうアリスだってばれたんだし、隠す必要はない。
とりあえず捕まるわけにはいかない。時間稼ぎに走り回るしかないと、一応駆けだした。袋の中から卵を取り出し、それを手で思い切りつぶす。開くと橙色の光が伸びて、オールになった。これで攻撃は出来る。
「へぇ、面白いね」
ハッと隣を見ると、呉也が隣で感心していた。足にはそこそこ自信があるのに、こいつ、半端ない運動神経の持ち主だ。
「褒め言葉をどうも」
とにかく引き離さねば。俺を捕えようと手を伸ばす彼に向かって、思い切りオールを振った。
驚いた顔の彼が、気が付いた時にははるか先の柱に背中を強打していた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷