その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「白の兵士の首を取ってきなさい」
命が関わっていたからだろうか?脳に直接響くような、ズンッと重たい感触があった。ただの言葉だと言うのに、押しつぶされそうになる。が、何とか留まった。この重みに負けちゃいけない。そう感じたからだ。
「い・・・やぁ・・・、それはちょっと、素人には難しい課題かなぁなんて・・・」
世渡りの要は笑顔だと思う。緊張のあまりへらりと情けない笑い方になったけど、きちんと笑ったつもりだ。でも、二人の顔はかなり固くて、なんというか、ぎょっとしている。王様の命令に意見するとか、やっぱダメだった?
しばしの沈黙の後、呉也が口を開いた。
「朱里ちゃん、今・・・」
「ええ。『命令』したわ、ちゃんと」
・・・どういう意味だ?確かにあれは命令だったけど、そんなに特別視するような内容だったのか?もしかして能力がどうのこうのとか?
ぽかんとした顔の二人が、徐々に笑いだす。特に女王の方の笑みは、恐ろしいことこの上ないほど腹黒かった。
何をした?俺は何をしちゃったんだ?
一人理解が追いついていないのに、高らかに朱里が笑った。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷