その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「・・・呉也(くれや)、アレは?」と肘をついたまま女王が聞き、
「ああ、そうだった」と俺を指差して、こちらを見ずに王が答える。
「入軍希望者だって」
感じ悪い上司だな!圧迫面接もいいところだ。
「まだ認めてないの?」
「朱里ちゃんがいなかったからね」
・・・うん、何か解った。さっきっからちょっと一方通行感はあったけど、たぶんそうだ。
赤の王が、赤の女王にぞっこんなんだ。あれ、ぞっこんって死語か?まあ、溺愛してるんだな。
それを肯定するように、朱里が呉也を呆れた目で見た。
「一人で決めていいのに」
「呆れた顔も素敵だね」
朗らかに、さらっとすげぇな、この王。その顔でそのセリフをシラフで言う性格なら、少女漫画のヒーロー役できるって。
眉間のしわに手を当てて、朱里がため息をついた。気持ちは解る。こういうタイプって思う方は自由だけど、思われる方は実際結構疲れるんだよな。恋愛じゃないけど、一方的に友情を叩きつけられたことがあるからわかる。
朱里は俺の顔を見て、にやりと笑った。怖いというよりは、多少色っぽく見えてドキッとする。落ち着け俺の心臓、人妻はダメだって。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷