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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「悪いけど、そこで待っててくれるかな?」
 ここで「ノー」と言えるわけがない。近くにあった椅子を指差されたので、そこに座った。
 しばし沈黙が走る。何度か話そうとしたけれど、結局話せないまま数分が経った。
 別にコミュ症なわけじゃない。今までの旅でもそうだったけど、初対面の人とでも、しどろもどろがあれど、話すことくらいは出来る。ましてや今経った数分なんて時間は楽勝だ。ただ、今回はケースが得意すぎる。
 相手の年齢は鷲尾と同じくらい。いや、少し上か?個人の勝手な想像で言わせてもらうと、大学院生とかの感じ。社会人って見た目じゃない。そんな年齢の人と話したことなんてないんだ。どんな話題がいいのか、さっぱり解らない。
 さらに相手は王様とか言う、日本じゃ非常識な職についてる。いや、非常識っていうとアレか。でも、王族との対話の仕方とか、対応のやり方とか、そういうのは絶対に常識じゃない・・・と、信じてる。
 つまり、この人相手だと、ネタもなければ話し方も解らないんだよ。
 誰か来てくれ。宰相だとか、召使いだとか、何かしらいるだろ、城なんだから!いっそのこと妖精とかでも大歓迎しちゃうよ!魔女が呪いに来たって万々歳だ!
 そんなことを願いだしたとき、ドアが勢いよく開いた。