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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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 間違いない。こいつ、赤の王族だ。っていうか、王様だ。
 でも。
 じっと彼を見た。
 ・・・若いな。
 正直、王様だって言うから、白髪、白髭、眉間にしわの頑固爺、くらいのイメージを持っていた。それがどうだ?この男は二十代前半と言われたって大丈夫なくらい若い。既婚者だから、きっと後半くらいなんだろうけど、どちらにせよ、王子でも通りそうな身なりだ。
 とりあえず、話を始めなければ。
「あの・・・」
「ちょっと待って」
 何か不手際があったか?
 こちらの不安をよそに、赤の王は深く腰をかけた。
「今、薔薇を見に行ってるんだ、朱里(あかり)ちゃん」
 ・・・あかりちゃん?誰?
「え?それが・・・えっと・・・どう関係して・・・?」
「朱里ちゃんがいないと、何も決められないからね」
 そこでピンときた。たぶん、赤の女王の事だ。「公平、公平」と繰り返していた服部や愛川の主人なんだから、王の独断なんてことはしない主義なのだろう。
 朗らかな顔で、こちらにほほ笑んできた。