その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
もしかしたら、ちょっと力を加えれば、残りは自動とか、そんな車みたいなシステムかもしれない。
そう信じて、扉に手をついた。ちょっと力を入れる。さすがにちょっと過ぎたのか、ピクリともしない。もう少し力を入れてみる。やっぱり反応がない。
・・・マジ?
仕方なく、もうダメもとで全力を出すことにした。扉に全体重をかける。と、すんなりと扉が開いた。
一部分だけ。
二十メートルくらいの巨大な扉の、下二メートルくらいだけが開いたんだ。ほんと、ただの飾りだったらしい。おかげで見事に倒れこんでしまった。
ドサッ
「おっと、大丈夫?」
体ごと、無様に乗り込んできた俺を見て、男の人が話しかけてきた。
「だ、大丈夫です」と打った部分をさすりながら立ち上がる。顔を上げると、絵にかいたような王冠をかぶった男が立っていた。いや、倒れこんできた俺にびっくりして立ち上がってしまった、と言った方が妥当だろう。
真っ赤な空間に見劣りしないくらい、真っ赤な髪が目立つ。真っ赤、と言うよりは、濃い朱色ってところか。金色の瞳が異様に映えている。
そして、頭には真っ赤な王冠を被っていた。くどいようだけど、羽織っているマント、服まで全部赤色だ。ただ、服には金色の差し色が入っていて、マントには真っ白な毛皮が襟に付いている。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷