その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「ト、トーヴ?」
それは確かに、あの瓶の中にいた小さな、イタチのような、アナグマのような生き物だった。本気で襟巻じゃないか。
手を見てみると、なかなか鋭い爪が見える。攻撃されたら、結構ひとたまりもないだろう。その爪はぎゅっと、俺の着ているベストに食い込んでいた。下りる気はないようだ。心細かったけどさ、確かに。
「・・・一緒に行ってくれんの?」
何も言わなかった。鳴かない生き物なのだろうか?ただ、持ち上げていた首を下げて、本格的に枝垂れかかってきた。このまま首を絞められるんじゃないかと言うくらい、ぴったりと首に寄り添っている。
たぶん、YESなんだろうな。
そう信じて、真っ赤な世界へと足を踏み入れた。
驚いたことに、城の中まで全て赤かった。唯一黄色い空が見える窓ガラスだけが救いだ。いや、やっぱりここもガラスははまってないみたいなんだけどさ。
しっかし・・・
「案内人とか、いないわけ?」
正直さっき、不躾と怒られたあのお姉さんがそういう事務担当なんだと思ってたんだけど。でもそうじゃないらしい。現に今、俺は一人でわけのわからない廊下を歩いてる。
「ヴッ」
あ、お前もいたな。ってか、鳴けんじゃん!
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷