その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「契約は当人としかできない。契約主、従属相手との顔合わせは不可欠だろうが」
あ、それは確かに考えれば解ったかも。
ちょっと恥ずかしくなる。もう少し記憶力ないかな・・・
そんなやり取りをしているうちに、門の奥から人が歩いてきた。あまり癖のない顔をしており、失礼ながら印象があまり使ないような顔だ。ただ、髪の毛が赤っぽく見えるのは、周りの真っ赤な風景に視界が乗っ取られたせいではないだろう。
その人は手に小型の懐中電灯みたいなものを持っている。あれ?どっかで見たことあるような・・・
「マークの確認を致します」
そういうと二人がむっとした顔をした。しかし通例なのだろう。愛川はさっと右手を差し出し、服部も手袋をはずして右手を出した。
「では、失礼します」
その女性は門越しに愛川の手を取ると、ライトでその甲を照らす。するとぱっと赤いハートマークが浮かび上がった。
思い出した。遊園地に再入場するときにする、あのスタンプとブラックライトの関係だ。あれにすごい似てる。こうなってくると、本当にここはテーマパークじゃないのか?
マークの確認を終えた女性が、深々とお辞儀をする。労うことはなく、手袋をはめながら服部が不満を漏らす。
「いい加減、顔を把握してもいいんじゃないかね」
女性は無視して奥へ行ってしまった。なんか・・・険悪だな、赤は。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷